(写真はこの3枚組ではありません)

ストーンズ・マニアにとって、この3枚組ほど衝撃的な音源流出は過去なかったんじゃないかとまで思える”Fully Finished Studio Outtakes”、一番の目玉はこれまで文献で読むだけで聴いたことがなかったDavid Bowie参加の”It’s Only Rock’n’roll (Demo)”だと断言出来るが、そのほかにも興味深いトラックがかなりの高音質で並んでいる。

体裁は日本製を装っているが、真実はどこに?まぁ、どこから流れたにせよ、マニアにとってはありがたい。

これを書いている時点(2021年3月7日)ではまだCDを手に入れてない。西新宿の某店には入荷しており、7,000円弱だったのでとりあえずパス。ちょうどYouTubeにいいタイミングでアップされたのを聴いて当面、やり過ごそう。

全部で50曲、とりあえずクレジットの録音年に従って、時系列に並べた。まずは60年代とあるこの4曲を聴いたが、いきなり違うだろう、と言う感じ。

すでにIORRサイトでは全曲解明を試みている投稿もあったから、見ちゃったけどね。

1. Putty In Your Hands 1963
63年とあるが、Dirty Work(1985)セッションらしい。databaseにも記載あり。オリジナルはシュレルズでヤードバーズも録音してる。Dirty Workと言えば”Harlem Shuffle”が先行シングルだったけど、この曲もリリースを考えてたんじゃないか。

2. Curtis Meets Smokey 1966 
文字通り、カーティス・メイフィールドがスモーキー・ロビンソン的コードで歌ってる感じ?66年と言うのは”My Girl”を録音した年だからかな?パーカッションの雰囲気など69年頃かなと思ったらどうやらJamming with Edwardのアウトテイクらしい。ギターはライ・クーダーか。

3. She’s Doing Her Thing 1967
出来損ないのブリットポップと言う感じでBetween the Buttonsあたりと思ったがSatanic Majestiesのセッションではインストバージョンが流出してるようだ。67年で正解。それらしいのはYouTubeで聴ける。

4. Blood Red Wine 1968
マニアにはお馴染みの曲。これは68年で正解。この写真の4枚組にも入ってる。テイクは同じだがミックスが違って、元々音がよかったが、さらにスッキリ。

5. Tell Her Now It Is 1971  
ずっと”Potted Shrimp”と言うインストとして古くは”Trident Mixes”などでブート愛用者には知られていたが、ここではミックのヴォーカルが入って、完成度が格段に上がっている。同じ頃に録音された”I’m Going Down”に手触りが似たパターン化したコード展開にメロディが乗る”Empty Heart”を起源とするストーンズ流のアレンジだ。71年とのクレジットであるが70年にStargrovesで録音されたらしい。

6. Don’t Lie To Me 1972 
72年とあるが明らかに違う。たしかに72年の全米ツアーでのチャック・ナンバーのレパートリーのひとつだったが、72年なのにミック・テイラーもスチュもボビー・キーズも感じない。リード・ギターはちょっとキース的ではあるが、3連を繰り出したりフィーリングが違う。この曲は72LiveのほかにメタモーフォシスとBBCバージョンが聴けるが、そのどれとも違う。IORRではミックのセカンド・ソロ・アルバムのプロモビデオ撮影時のjamではないか(ギターはジェフ・ベック)との書き込みがあるがその可能性を感じる。

7. Trouble’s A Coming 1972 
一瞬”Stop Breaking Down”などを連想してしまいがちだが、72年の録音とするには無理がある。どうやら79年にナッソーでのセッションからのものと言われる”Break Away”と同じと思われる。音質は格段にいい。

8. Fast Talking Slow Walking 1972 
”Goats Head Soup”のセッションで録音され、すでにブートではお馴染みのナンバーだが、去年りリリースされた同アルバムのリイシューには収録されなかった曲。やはり、歌詞が決まらなかったのだろうか。72年のキングストンでのセッションからと言われているが、チャーリーのドラム・フィルに郷愁を感じる()

9. Criss Cross 1972 
こちらは去年リリースされた”Goats Head Soup”に収録されたナンバーで1972年キングストンでのセッションからと思われる。マニアには長い間”Criss Cross Man”としてお馴染みだったが”man”ではなく”mind”だったとはね。

10. Desperate Man 1973
この録音時期は難問だが、1973年でないことは確かだ。一瞬、”Almost Hear Your Sigh”を思わせるが、だとするとベースはビルと言うことになるが、違うと思う。まぁ、ビルが弾いてない曲もかなりあるから時期だけでは決められないが、また仮に”Steel Wheels”セッションだとしたらキーボードがないのが奇妙だ。The Rolling Stones Databaseによれば1997年の”Bridge to Babylon”のアウトテイクとして記録されている。それならこのベースラインも納得がいく気がするね。

11. Too Many Cooks 1973 
ミックのソロ・アルバムにも収録されたナンバーで7312月の録音と言われている。プロデュースはジョン・レノン。ベースはジャック・ブルースだ。73年暮れというとジョンの”Lost Weekend”の時期でちょうど”Rock’n’roll”のセッションに符号する。一方、”Beatles Undercover”と言う本にはジャック・ブルースの発言として74年初頭から春の間と言うのが紹介されている。如何にオープンなセッションが夜な夜な繰り広げられているとは言え、そこに居る必然性があるはず。その点、ジャックの発言は、自身のアルバム制作でLAに居た時期だと言うから信憑性がある。またまた一方で、メイ・パンは7312月とのコメントをしているし、参加メンバーが誰なのかも諸説ある。リンゴもそこに居たと言われるが、彼自身は演奏には加わってはいないようだ。この曲にまつわる話だけで本になりそうだ(苦笑)

12. It’s Only Rock’n’roll 1973 
この曲こそ、この3枚組の価値を昇天レベルに高めたと言っていいだろう。それほどのレア・トラックだ。ストーンズ・マニアにとっては、伝説を事実として目撃したに等しい興奮がある。1973124-6日にロン・ウッド宅のスタジオThe WickDavid Bowie参加の元、行われたセッションの成果物であり、47年を経てそれが証明されたと言う訳だ。去年、過剰な期待で迎えられた”Scarlet”が意外なものだったのとは正反対にこれこそリアルと言えるだろう。

13. Walk With Me Wendy 1974 
74年とあるが、曲調、演奏、録音などからLet It BleedSticky Fingersあたりの印象を受ける。アクセントの異なる”Bitch”と言う感じのリフがひたすら続き、未完成なミックのヴォーカルが彷徨う。Stones Databaseでも706-7月のセッションの一曲として記録されている。

14. Living In The Heart Of Love 1974 
この曲もアナログ・ブートの時代から知られるいかにも70年代前半のストーンズと言うナンバー。公式に発表されなかったのが不思議なレベル。これは74年で正解。2-3月のミュンヘン、ミュージック・ランドでの録音。

15. Scarlet 1975 
去年突如としてリリースされ、話題をさらった感があるが、もともとキースとスチュをフィーチャーしたナンバーと言われていたのに聴いてみたらミックが歌っているではないか!ドラムとベースがチャーリーとビルではない、と言うのも考えてみればおかしな話だが、それゆえにお蔵入りした可能性も十分考えられる。このバージョンはあれだけ騒がれたジミー・ペイジのソロが入ってないもので、全体のミックスもリリース版に比べるとラフな印象。しかしなぜジミーの演奏のないバージョンなのか。ロニーの地下室で74年10月に録音したした翌日にキースとジミーはオーバーダビングをしている。そんなジミーのソロを削除した意図はどこにあるのだろう。ちなみに、この曲については僕のホームページに「Scarletの妄想」と題して、これでもかの追求結果が載っています(苦笑)。

16. Nobody’s Perfect 1975 
この爽やかなともするとアメリカン・ロックにも通じる感じは75年の訳はない。まして、バックはストーンズではないのではないかとまで思わせる演奏。少なくともチャーリーじゃないし、キースやロニーではない。早くて90年以降、ミックのソロアルバム用の録音ではないのか?

17. Part Of The Night*(*は「アート・コリンズ」にも収録)
この曲も難解であるが、1976年のものではないと思う。この前の曲と比べてチャーリーもキースも感じる。ベースはおそらくビルだろう。”Steel Wheels”あたりのセッションかも知れない。実は”Golden Caddy”としてマニアには知られるナンバー。僕は持ってなかったので知りませんでした(苦笑)。78年の録音らしい。

18. Not The Way To Go 1977 The Clashにありそうな節回しとレゲエとロックンロールを巧みに混ぜ合わせ、そこに転調をかますというなかなか凝ったナンバー。
”Neighbors”を思わせるところもあり、”Tattoo You” に入っていても違和感ない感じ。もう少し詰めて発表したらよかったのにと思う。明らかに78-79年あたりの録音と思われるが、database788-9月のセッションで、との記録。YouTubeに少なくとも10年前から上がっていた。

19. Never Make You Cry 1977 
このケレン味の無さ。こう言うスリーコードでちょっとガスプーなシンプル・ソングなのにスプリングスティーン風味にならないところにストーンズらしさがあるのか。ベースがビルであるようなのとミックの声、テイラーの不在から76年から80年までと推測する。ちょろっと聴こえるエレピはミック?だとすると”Black and Blue”セッションか?記録によると77年のパテ・マルコーニでのセッションらしい。

20. You Win Again 1977 
“Some Girls”のデラックス・エディションで公式にリリースされたハンク・ウィリアムスのカントリー・ナンバーだが、お手本にしたのはジェリー・リー・ルイスのバージョンだろう。1977年で正解。7710月のパテ・マルコーニでのセッションから。”Some Girls”と言えばストーンズ流モロカントリーの”Faraway Eyes”でファンはびっくりしたものだが、これはその曲に向けての準備の一環だろうか。パンク・ロックの煽りを受けてか、この辺りからやたら白人ロックンロールの影響が目立つ。と言うか、わざと接近しているようにみえる。なぜだ⁉︎ 話が長くなるので、別の機会に(苦笑)!

21. Every time I Break Her Heart 1977 
これはあからさまな”Faraway Eyes”の習作!歌詞はまったく出来ておらず、テイクも7分に及ぶとりとめのないものだ。77年で正解だろう。

22. Fiji Jim 1978 
80年代から比較的音質のいいテイクがブートされてたお馴染みのナンバーだが、ここではぐっと完成度があがり緻密に出来ている。録音年は77年から78年。似たような調子の曲に公式リリースされた”Claudine”があるが、こちらはデイル・ホーキンズを思わせるスワンプな香りも感じる。かなりいいのではないか?

23. It’s A Lie 1979 
80年代から”Emotional Tattoo”などで紹介されていたが、ここでのバージョンは「モンキー・ビート化した”Dead Flowers”(ただしギターはモンキー・ビートしてないが)と言った趣きでなかなか楽しい。完成度もかなりのもので、曲としても公式リリースされてもいいレベルかと思う。しかし、楽しい曲ではあるが、いまいちこれと言ったインパクトに欠ける気もしてやはりお蔵入りなのだろう。録音年は79年で正解のようだ。

24. Covered In Bruises 1981 
Ron Woodが大幅にフィーチャーされてると思ったらそれもそのはず、彼のアルバム”1234”のタイトルトラックの原型なんだそうだ。録音は81年ではなく82年らしい。それにしても、この曲はストーンズでやる予定だったのだろうか?だとしたらロニーが作者としてクレジットされるレアなナンバーになっただろう。

25. Still In Love With You 1982 
ピアノのイントロは誰だろう。82年とあるが、”Almost Hear You Sigh”を思わせるようなコードは”Steel Wheels”以降の感じがする。マイナーコードが適度に入って、曲全体がストーンズぽくない。しかしミックの裏でキースもシャウトしてるところがストーンズなんだと安心する。でもこのキースの声からしても82年ではなくもっとずっとあとじゃないか?と思ったら82”Undercover”のアウトテイクらしい。ん〜分からなかった!

26. Keep It Cool 1982 
これは8212月のパテマルコーニでの“Undercover”セッションから。何種類かテイクが残されており、ほかのブートで聴けるようだか、この3枚組が出る前に盛り上がったアート・コリンズの11枚組ではやたら長いテイクも聴ける。リフを中心にジャムっている印象だが、アルバムに入ってた”Feel On Baby”を連想させる。

27. Can’t Find Love* 1983 
Rolling Stones Databaseによれば、この曲も8212月の”Undercover”セッションからとなっているが、印象としてはもう少し前、”Tattoo You”セッションでの録音と言われてもなるほどと感じる。それは”Undercover”と言うアルバムの特異性から来るものだと思う。曲としては、シンプルなコード展開が延々続くタイプだが、ストーンズらしく聴こえてしまうところにストーンズのストーンズたる所以がある。最後の方で”Just My Imagination”を連想させるシンコペーションが効いたベースはやはりビルであろう。ヴォーカルがリヴァーブ処理でほんの少しダブっぽくなるところが”Undercover”セッションだからか。

…と言う具合に聴いていくとしようかな苦笑。
(続く)