パンク・ロックが流行っているらしい

パンク・ロックはニューヨークからやって来た。やって来たというより、ニューヨークでやっているらしい、と雑誌で読んだ。どのグループが最初にパンクだと言われて輸入されたのか、記憶が明快でないが、ニューヨークの前にランナウェイズが紹介されたように思う。いや、ラモーンズが先かな。それともパティ・スミスか。ランナウェイズは過激な格好が話題になったけど、パンク・ロックではなかった。そうするとラモーンズか。革ジャンでビーチボーイズみたいなナンバーの回転を上げたような演奏らしい。いや、今改めて調べたらパティ・スミスの「ホーセズ」は75年だから彼女が最初か。パティ・スミスは難しい印象だったので本格的にファンになったのはブルース・スプリングスティーンと共作したBecause The Nightからだな。そのまえに、テレヴィジョンか。テレヴィジョンは雑誌で名前を知った時、おかしな名前だと思った。だってテレビだよ。たしかThe Tableというバンドもいたように思う。テレヴィジョンは「マーキー・ムーン」が発売になってすぐ輸入盤で買った。77年春のことだから、僕が最初に買ったパンク・ロックのレコードは「マーキー・ムーン」ということになる。

テレヴィジョンのLPはまずジャケットの異様さに目が留まる。蛍光灯の下で撮影されたような、カラーコピーのような色調で、こっちをじっと見つめている目。大丈夫か?!それは退廃的と言われたストーンズやグラムロッカーとも違う新種の病的なムードだった。

 

A面一曲目からギターにギターを重ねたサウンドに甲高いヴォーカルが乗る。2曲目の真夜中に街灯が黄色くまぶしい光を投げているようなイメージに続いて、3曲目のFrictionでノックアウトされた。エンジニアにストーンズで知ったアンディ・ジョンズの名前を見つけて「おお!」と思った。いわゆるストーンズっぽさはないがとことんロックンロールだと思った。

 

表題作の4曲目は、もたり気味で叩くドラムがCCRみたいだなぁと思ったりした。CCRとの接点などあるはずもなかろうが、あとで元メンバーのリチャード・ヘルがCCRのWalk On The Waterをカバーしているのを知り、我が意を得たり!と嬉しくなった。憑かれたようにB面を聴き進み、ラストのTorn Curtainがとても怖かった。友人は血だらけになって十字架を背負って歩いているようだと言った。全曲好きになったし、リピートにリピートを重ねて聴いたものだ。ニューミュージックマガジンでは大貫氏がレヴューをしており「難しいことなんかない。ポップ、とくにフレッド・スミスのベースがポップだ」とか言うようなことを書いていたように思う。

ある日曜の朝、テレビで

ニューヨークからロンドンに飛び火したというかそういう仕掛けがされてたわけなんだけど、今度はロンドン・パンクだということになった。ニューヨークに比べて、若い連中がやっている。うすうすわかっていたが、英国パンクロックのバンドは僕と同じ1955年生まれのメンバーが多い。そもそも1955年生まれだと言うと、ロックンロールと同じ年生まれじゃないか!と悦に入ってたものだが、これは決定的だ。それまでBeatlesにしろStonesにしろ、Springsteenにしたって年上だったが、同級生とは!まさにMy Generation!なわけだよ。興奮するね!笑

 

でも英国のパンク・ロックとの出会いはちょっと地味というか「これがそうなのか?!」みたいだったんだけど、ある日曜にテレビを見ていたんだよ。なんでも英国で起きている新しいロック・ミュージックということで紹介されたのがストラングラーズ。パブで演奏してる動画で、たしか2曲、そのうちの1曲はGo Buddy Goだった。むくつけき男のバンドだなぁって思った。マッチョとは言わないがぜんぜんファッショナブルじゃない。歳もちょっと取ってるし(実際ストラングラーズはパンク最年長のジェット・ブラックがいたからね)。しかもパブだから伝統的な風景の中で演奏しているんだ。そもそもその番組は音楽番組じゃなくて世界のナントカみたいなヤツで、英国の動向、みたいな感じでの取り上げられ方だったから、まぁ、ファッショナブルでなくても不思議はない。でもかえってリアルな感じがした。これが出会いだったわけ。

そうこうするうちに伝わって来たんだよね。まずThe Clash。彼らのファーストLPと遭遇。新宿レコードだったかな。わー、かっちょええ!え?で、何、3人?え?ドラマーいないの??なんてね。えーっつう感じだった。実際にはテリー・チャイムスが叩いているんだけど、メンバーじゃないみたいな。キャロルみたいだなぁって思った。ルイジアンナのシングルって、ひとり後ろ向いてるでしょ。ちょうどドラマーがいない時だったからそうやってごまかすと同時にミステリアスな演出をしていたんだ。

 

サウンドもFMで耳にし始めた。しかし・・・軽い。ショボい。ロックンロール・チューンもポップというより骨組みだけみたいな、さ。ベースがぐいぐいドライヴしていくわけじゃない。だからBeatlesの初期とは違う。結構正直なところ抵抗があった。ニューヨークのに比べると軽かったから、結局今で言うクラシック・ロックにどっぷりだったわけで、パンク・ロックのチープなサウンドがすんごいいい!と思えなかったんだ。

 

ほかのバンドもFMで聴いては、ああ、いいんだけどね、でもレコード買うか?!って感じ。その辺がドクター・フィールグッドなど

と違う。だからアルバムデビューしたバンドでもシングル盤どまりということが結構あった。まだ大学生だったからバイト代しかなくて、その中でどれを買うかやりくりしてるわけだからね。このThe Damnedもそう。近年、このシングルはめっちゃ値上がりして10万円とかの買い取り価格がついてるけど、バーっと演奏してあっという間に終わるタイプだよね。だから嵐のロックンロールなのか?!とかさ。骨組みだけのロックンロール。

そして名前だけ聞いてたThe Sex Pistolsのアルバムがついに出た!日本盤はコロムビアだ。ライナーノーツは大貫憲章氏。彼は当時パンク・ロックの日本でのアイコンみたいだった。The Clashのライナーノーツも彼。ほかにもいろいろ書いていたと思う。すごい勇ましいんだ。内容が。もう気負いがすごい。そう言えば、音楽専科だったかな、来年のロック・シーンを占うみたいな企画があって、大貫さんとか渋谷陽一氏とかが語り合ってた。その中で大貫氏は「スモール・フェイセズみたいな感じで、ヴォーカリストとギター、ベースとドラムというようなのが出てくると思う」って言ってたんだね。もしかしたら何らかの情報を持っていたのかもしれない。でもそれが見事に的中。流石!と思った。NHKでラジオもやってたから聞いていたしね。

 

そう、The Sex Pistolsだ。なんていう名前なんだ!って思った。だってSEXにピストルだ。テレヴィジョンというのもすごかったけど、ピストルだからね。なんて直接的、笑っちゃうよ。ダサい!って印象。それにラジオで聞いたAnarchy In The UK、笑ってるじゃない。ClashとかDamnedに比べてテンポがゆっくりだし、へんにひしゃげた感じを受けた。でもレコードは買ってない。もっと行動すれば買えたかもしれないが、まぁいいかなぁって感じ。で、続いてFMでDid You No WrongとかPretty Vacant、勿論God Save The Queenも聴いたと思う。

 

そして77年の秋かな、アルバムが出た。え?プロデューサーはクリス・トーマスなの??不思議だった。クリス・トーマスといえばホワイト・アルバムだったりミカ・バンドなわけでしょ。ニュースとして入ってくるやれレコード会社を変えるたびに金を儲けているとかテッズとの抗争で殴られたとかまぁ、いろいろあった。そんなバンドをなぜクリス・トーマスが、という感じだった。で、聴いてみるともう、これがすごい。大貫氏は「水爆みたいな」とイケナイ表現をしていたが、ほかのパンク・ロックに比べて重い。だけど、スピード感がすごい。ギターもドラムもかっちょええ。ジョニー・ロットンのヴォーカル、フレーズの尻を上げるのはディラン的で下げるのはミック的とか書かれてた。コックニー訛りがまたカッコよかった。これぞロンドン!すっかりLPにハマってしまい、T嶋に手紙で感激を綴ったが、彼は「俺にはジョンとヨーコのSometime In New York Cityのほうが衝撃的だ」と返してきた。ところで、クリス・トーマスと言うことでは、のちにミカ・バンドの黒船に入っている「タイムマシンにお願い」を聴いた時にピストルズ・サウンドのルーツを見たような気がしたものだ。

※写真一番右、デビュー前のデモを集めたSpunkのオリジナルだと思うけど、追加しておこう。

77年はClash、Damned、Pistols、Stranglersばかりじゃなく、Elvis CostelloやJamらの情報も入ってきたし、ほかにもいろいろ賑やかになってきた。

 

当時、NHK FM「サウンドストリート」だったかな、渋谷陽一氏のDJでパンクロックが盛んにオンエアされた。渋谷氏はツエッペリンやビートルズが専門だったと思っていたら、なんだかパンクロックにご執心だったようでなかなか重宝した。で、エアチェックしてジャケをデザインした。このユニオン・ジャックみたいなのは「何か」がおかしくて英国感が希薄なんだが(笑)、BBCのTop Of The Popsをそのまま放送してくれたから興奮した。ナレーションとか。FENはよく聴いてたけど、ブリティッシュはそうそう聞くことがなかった。1曲目はスティーヴィー・ウィンウッド、で2曲目がPistols、そのあともショワディワディとかMORというかAORなのに混じってコステロのRed ShoesやストラングラーズのSomething Better Changeが小気味よく飛び出してきた。そうそう、この時掛かったRed Shoesはスローなんだよ。だからLP(僕はUS盤を買った)を聴いた時に「ん?!なんか違う!」とびっくりしたものだ。このテイクは何に入っているんだろうと気になって、のちにシングル盤買ったり、英国盤LPをチェックしてみたり、インターネットの時代になってもなかなかわからなかった。で、結局ブートを買ってみたら、どうやらこれはBBCのために録音したものらしいことがわかった。でもこのバージョン、いいんだよなぁ。だいたいElvisCostelloの風貌にまずやられたし、だってBuddy Hollyみたいじゃない。安全ピンを刺しているわけでもなく、レザーに鎖でもない。垢抜けないシャツにスラックスだったりしてなんか共感したよ。パンクロッカーにもこういう「安全そうな」ヤツがいるんだってね。

 

残りの二つのうち、TDKのはジャケがニューヨーク・パンクぽい。てか、こじんまりしてて、もっとやっちゃえ!って感じでしょ(笑)!これも多分サウンドストリートだったと思う。こっちはパンクロックのルーツと言われたStoogesらのナンバーも交え、カセット両面埋めるくらいいろいろ掛かった。もうひとつはScotchテープで透明なケースなんだよ。よく買いましたよ、このシリーズ。で、これはTom RobinsonやIan DuryのLiveをエアチェックしたもの。時代的に少しあとかな。